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釧路地方裁判所 昭和42年(む)2号 決定 1967年9月08日

被疑者 米田茂

決  定 <被疑者氏名略>

右被疑者に対する暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件について、昭和四二年九月七日釧路地方裁判所裁判官がなした勾留請求却下の裁判に対し、検察官真宗雅一が申立てた準抗告につき次のとおり決定する。

主文

本件請求を棄却する。

理由

本件準抗告申立の趣旨および理由は、別紙準抗告および裁判の執行停止申立書記載のとおりである。

要するに、本件の問題たる点は、本件被疑者の逮捕が適法であるか否かにあるので、この点につき検討する。

司法警察員作成の現行犯人逮捕手続書および山田弘、小室信良の司法警察員に対する各供述調書によると、本件被疑者の逮捕にあたつた警察官が、犯行現場に赴いた際には、すでに犯人は四散し逃走していたこと、右警察官は現場に残つていた被害者二人から犯罪事実を聴収したうえ、被害者を伴つて附近の飲食店街を捜査したところ、犯行現場から十数メートル離れたバーから出てきた被疑者ら二人を見て、被疑者が、「自分達に暴行を加えた者達の中にこの二人もいた。」旨申立てたので、右両名を暴力行為等処罰に関する法律違反の現行犯人として逮捕したことが認められる。

ところで現行犯人として逮捕しうるためには、現に罪を行いまたは現に罪を行い終つた者であることが現場の状況等から逮捕者に直接覚知しうる場合でなければならないのであつて、被害者の報告以外に外見上その者が犯罪を行つた者であることを直接覚知しうる状況の存しないときは、現行犯人として逮捕することはできないものと言わなければならない。前示認定の事実によると、本件逮捕当時被疑者が犯罪を行つたことは被害者の申立以外には何らこれを覚知しうる状況になかつたものと認められるから、本件被疑者を現行犯人として逮捕した警察官の措置は違法というべきである。

次に検察官は、本件被疑者の逮捕は、犯行の数分後に、犯行現場から約十メートル離れた場所において、被害者の「この男が犯人である。」旨の呼称にもとづいて行われたものであるから刑事訴訟法二一二条二項一号の「犯人として追呼されているとき。」に該当し、準現行犯逮捕として適法である旨主張するのであるが、前示認定のように、犯人が犯行現場から逃走した後において、被害者と共に犯人を求めて捜査した結果犯人と目される者を発見したというような場合は、たとえ被害者からその者が犯人である旨の申立がある場合であつても、右法条に所謂「犯人として追呼されているとき。」に該当しないものと解するのが相当である。したがつて本件被疑者の逮捕は、準現行犯逮捕としてその適法性を肯定することもできない。

そうすると本件被疑者に対する勾留の請求は、その前提たる逮捕手続が違法であるから不適法というほかはなく、右請求を却下した原裁判は相当である。

よつて本件請求は、その理由がないからこれを棄却することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 井上隆晴 兵庫琢真 石井義明)

準抗告および裁判の執行停止申立書<省略>

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